落語は日本人にしっくりくる「柳家小さんの太田道灌」
錦鯉も、サンドイッチマンも好き。でもこの頃、落語にはまっている。「大笑い」というより「クス」とくる笑いにホッとするのは、日本人だから?
太田道灌について
「太田道灌」は、戦国時代の入り口、15世紀の後半で活躍した武将。江戸城をつくった人だ。道灌は戦にも強かった。応仁の乱の少し前から関東は戦国時代に突入。その戦乱の中でも「あいつは強い」と敵からも味方からも評価されていた武将。
この道灌を、柳家小さんはどんな落語にするのか。
柳家小さんの「道灌」
お決まりのボケ役「くま八」が、ご隠居のところにやって来る。
『ゆっくりしてっておくれ、今お茶入れるかなね』『どうも、お前の顔を見ないと、その週は何となく物足りないな。』
「あっしも、ご隠居さんの顔を見ないと、その日は、何だか・・・、通じがありませんね。」
『やだよこの人は、私の顔で通じをつけてちゃあ困るな。さあ、お茶が入った。こりぁあ、粗茶だ。』
「いいですよ、オタクに来るたびに、こうやって粗茶ご馳走になりますけどね、オタクの粗茶はいい粗茶だ。」
『おいおい、粗茶と言ったのは、卑下したんだよ。』
「髭剃ったんですか?」
『おいおい、粗末なお茶であるから、粗茶と言った。』
「あ、粗末なお茶で粗茶ですか。じゃあ、これひいてるのは粗座布団だ。〜」
と話に入っていく。
やがて話は、隠居さんの娘の話になる。
『娘が一人いてな。』
「はー、娘がいるんですか、へー、そりゃあ知らなかったなあ。娘さんてなあ、一体幾つなんです?」
『そうさなあ、確かもう42になるかなあ。』
(さもがっかりしたように)「なあんだい、そりゃあ娘じゃねえや。ババアだ、そりゃあ。」
『何言ってんだい、私にとっちゃあ娘だよ。』
「そりゃあねえ、隠居さんにとっては娘でね、世間の相場じゃあババアだよ。」
どうもくま八は口が悪い。
さらに話は進んで、くま八は「隠居の身は退屈だろう」と隠居さんに聞く。
隠居さんは、自分には書画の道楽があるので退屈しないと返す。
するとくま八は床の間に目をやり、「それで床の間に取っ替え引っ替え、いろんな絵がぶら下がっているんですね」と言う。
さらに、くま八は見慣れない屏風に小野小町の絵を発見する。その絵は何かと隠居に尋ねる。
ご隠居は、『この絵は、雨乞い小町と言って、ウタを読んで雨を降らしたんだ』と説明する。小町の話で盛り上がり、話題は次の絵へ・・・。
「下の絵は何だい?」
ついに、道灌の話になる。
くま八は、女が盆の上に何か黄色いものを載せて武士に差し出している絵を見る。
盆の上に乗っているものをライスカレーと勘違いするくま八に、
『これはライスカレーではなく、山吹の花で、この武士は太田道灌という』と教える。
さらにご隠居は、道灌について『この武士は、太田左衛門大夫持資、のちの太田道灌だ』
(道灌の実名をモチスケとしているんだなあ)
「へー、一体これは何してる絵なんですか」とくま八。
『足慣らしのために、山中に狩に出かけたところの図だなあ。』『すると、にわかの叢雨だな。』
しかし、くま八は叢雨が分からない。
ご隠居は、難しいことは言わず『ムラサメは雨のことだよ』と教え、構わずに話を続ける。
『雨具の支度がないな、お困りになる。ひょいと傍を見ると、一軒のあばら屋あったなあ。雨具を貸してくれと言って訪れる。すると中から、十六、七の賤の女が出てくる。』
「すずめが出てきた?」
『すずめじゃあないよ、シズノメだ。十六、七の卑しい乙女が出てきた。みすぼらしきなりをした娘だ。』
『雨具を貸せ、というと顔を赤らめて中に入り、やがて山吹の枝を手折って盆に乗せて出てきた。そして、お恥かしゅうございますと言って差し出したな。』
『七重八重、花は咲けども山吹の 実の一つだに なきぞ悲しき』
家来が道灌に娘の歌の意図を教える。
山吹というのは、花は咲くが、実がならない。つまり実と蓑をかけて蓑がないと言っていると。
この出来事で、道灌公は自分が花道に暗いことを恥じた、とくま八に聞かせる。
これで、「いい話を聞いた」と喜ぶくま八。道灌公に今さらながら興味をもち、「道灌公は城持ちなのか」と聞く。
ご隠居は、江戸城が道灌の城だと教えると、くま八は信じない。
「嘘だよ、江戸城は徳川さんの城だと、うちの爺さんが言ってましたよ。」
ご隠居は『そりゃあお前、太田道灌の後に徳川さんのになったなあ。』
「あそうか、じゃあ徳川さんが太田さんからあの家を買ったんだ。あれ、安く買ったろう。家やすっていうくらいだから。」
(思わず笑った)
ここから、くま八の能天気な行動描写になっていく。友達に自慢しようとご隠居から山吹の歌をかなで書いてもらい家に帰る。
折しも雨が降り出し、くま八は誰かカモが来ないかと手ぐすね引いて待っている。そこへカモが・・・、
「おーい、提灯貸してくれ」と友達が入って来る。
驚くくま八、友達はすでにカッパを着ていて雨具は必要ない。帰りが遅くなりそうなので提灯が借りたいのに、くま八は、何とか雨具を借りてくれとゴネる。
提灯を借りたい友達は、くま八に付き合うことにするが、くま八は肝心の山吹の歌の句を読めない。
そこで友達が、句を読んでやるが、
「七重八重、花は咲けども、??山伏の?、味噌ひとだると、鍋と釜しき?」と読む。
すると、くま八は自分を棚に上げ、
「何言ってんだ。それ見てわからねんところを見ると、おめえも、よっぽど、歌道に暗えな。」と友達を罵る。
すると、友達は、
「暗えから、提灯借りにきた。」
クスッとする落ちが心地よい。