inaojiの日記

社会科教師OBの社会科系徒然語り

不合格教科書を読む 神話と考古学について

 中学校社会解説に、「神話・伝承などの学習を通して当時の人々の信仰やものの見方などに気付かせるよう留意する」とある。
 これによって、各教科書とも、神話に関する記述が見られるはずだ。
 竹田恒泰氏の不合格教科書には、天孫降臨という一章がある。そこで、国譲り神話、天孫降臨の物語について記述される。そして、「皇室が稲作と関係が深い」と明記される。
 不合格教科書が優れているのは、神話が、考古学等の発見と結び付けられるように配慮されている点だ。
・文明とは、「農耕を開始して、都市を形成し、文字を用いて広範囲な貿易をしていること」と竹田氏の教科書は定義する。
 その上で、考古学の知識として「日本列島から、最古の磨製石器と最古級の土器が発見されている」こと、「日本は他の文明圏とは違った独自の文明の起源をもつ」ことが示され、おそらく私たちが現役教師の時代には見たことがない『日本文明』という用語が示される。
 日本文明という用語は、中学生の心に自分の国への自尊感情を掻き立てるだろう。

 ではなぜ「優れた日本文明をもつ人々の農耕開始が、他の文明圏より遅れたのか」という問いを当然もつはずだ。
 その問いに対しては、「日本列島は豊かな温帯林に囲まれ、周囲を海に囲まれた環境にあり、山海の幸に恵まれていた」「他の文明圏に比べて食糧を得ることが容易であった」と示し、決して文明が遅れていたわけではないことを中学生にストンと分かるように配慮されている。
 しかし、縄文時代の晩期になると、寒冷化が起こる。
 それによって自然の実りが欠乏した。必然的に、縄文人は稲作を開始する。
 この流れで示してくれると、とても分かりやすい。
 稲作が始まれば、国が生まれ、王が出現する。
 この教科書で学ぶと、考古学等の知識と、神話が無理なく結び付く。